四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪目の付け所と目の保養≫

クリスマス・イルミネーションが華やかな季節となりました。私の最寄り駅ではすでに11月中から点灯しています。
また駅のポスターでは年末年始にかけて首都圏の観光施設が競って文字通り光を観る幻想的なイベントを宣伝しています。


わざわざ雑踏の中へ出向いて作り物の煌めきに陶酔する。それは私には理解できない喜びですが、近年はプロジェクションマッピングなど、こうした『場』を体験し共有する催しが人気のようです。


思えば35年前、東京ディズニーランドが開業した初年度、親に連れられて行ったのですが、何の印象も残っておらず、それっきり訪れていません。
同じ頃の筑波科学万博は自分から3回行っており、私には当時から、架空の世界観や作り物のキャラ、仰々しいバトルなどへの否定的な眼差しがあったようです。事実、同世代が熱狂するマンガやアニメの数々は全く見なかったし、友達に誘われて観た映画『AKIRA』や『童夢』も私にはあまりピンときませんでした。


こんにちのTDLの隆盛とマンガ・アニメの世界的人気を見れば、私の感受性が時代とはぐれて孤立したことは明白です。80年代のバブルの空気やアイドル文化に馴染めず社会との接点を失っていった長いブランクが、いま改めて同時代の好みやエンタメカルチャーとの再接続を難しくしていると言えるでしょう。


ところがこの秋、秋葉原の現場で思いがけない光景と連日向き合うはめになりました。
秋葉原といえば私には90年代、クラシック音楽の輸入CDを買いによく訪れたのを思い出します。もちろん、その後世界的なオタクのるつぼとなってからの賑わいも知ってはいます。でも、一歩離れた裏通りのビルの改修工事でメイドカフェの正面に立ち、よもやコスプレ姿の女性や客の出入りを逐一見届ける日が来るとは…。しかも別のメイドカフェがすぐ脇にもあり、そちらに至っては衣装もより奇抜で、男爵姿や幼稚園児?のいでたちをした女性までが表通りへ客引きに出ていくのです。


狭い路地なのに外国人客の訪れも絶えず、なんとガイドつきで20人近い欧米人ツアー客が押し寄せたこともありました。ポップカルチャーの聖地、時代風俗の最先端、SNS映えのする格好の被写体として、アニメキャラのコスプレ嬢は確かにkawaii文化の一つのアイコンでした。


目の保養でお前いいなァ、などと他の隊員に言われるたびに苦笑い。でも苦笑の陰には80年代以来の私の日本社会やエンタメ志向への溶け込めなさが重苦しく横たわっているだけに、思いは複雑でした。


とはいえ、外国人客にとっては、わが警備員のコスプレもまた、アキバの風景に興を添える被写体と映ったようです。特に、ムスッとした高齢者ではなく声をかけやすい顔だちからか、私を呼びとめてメイドカフェをバックに写真を撮る人が毎日いました。中には本格的なカメラを据えて、立ち位置・ポーズにまでこだわる輩も。


撮影即発信のいま、私の写真もどこかで見られていることでしょう。実は警備員の中でも交通誘導というのは日本独特の仕事のようです。警察官のような権限は何もなく、建築現場や道路工事・駐車場などに特化して、第三者災害を未然に防ぐために配置されます。警察官から見れば一種のコスプレ仕様かもしれません。


そういう意味では、アキバで私を撮った外国人は巧まずして日本ならではの光景を捉えた、目の付け所のいい人だったのかもしれません。