四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪見越入道 ⑰≫

オラトリオ見越入道
刻露清秀

〈5〉(続き)

沿岸には多くの奢侈が名を連ね
虫歯の村は朽ちてなお野に晒される、
一切を見渡す氾濫原から
養殖の保護区を越えて外洋へ出れば、
舳先に立つ競い肌は
渦としぶきで目も当てられず、
無辜の寓りは石群に似て
甲板の斜度と寝起きを共にする。
計器類には徳目を並べ
すべてのジャイロは動く魔方陣
蒸気機関から無量光まで
馬力と他力にかしずかれつつ、
それでも遠来行き交う魂魄
心ならずも奴隷船籍、
感傷の器を満載し
迫り出しやまない棚氷のように
夢中で手を振り、手を差し伸べる、
手続きのない港を求めて。


(続きは次回)


結局3月は4日以降休み無しでした。そのため、半年に一度義務づけられている警備員の現任研修というのを、期限間際の本日受けるはめになりました。


しかし現場に出ずっぱりだったおかげで、いわば工事の全工程に立ち会ったような充実感を味わいました。オーケストラの後方で立ちっぱなしの打楽器奏者として大曲に彩りを添える役割を果たせたような気分です。実際、月ごとの工程表などはオーケストラの総譜と似ています。縦軸に建物の階が、横軸に日程が、各階ごとに横棒で作業工程が示され、全部の階で仕事をしている日はtutti(総奏)で音が鳴り響いている状態です。他にも、1つの職種が2~3班に分かれて作業するdivisiや、一連の工程を下の階から順を追って数日遅れで進めていくcanonなど興味は尽きません。指揮者が総譜の「練習番号」で区切ってオケの練習を進めるように、監督・職長間の打ち合わせで入念に段取りを決めないと混乱や弛緩、ズレや手直しを招きます。また一奏者が派手に音をハズすと大きく興をそがれるように、一作業員の過失や事故で工事が止まることもありえます。


ともあれ、山積みのトンパックを一掃し、ピロティの床養生を剥がし、仮囲いを撤去し終えてわずか20分後には消防検査を迎えるというきわどい間に合わせようでしたが、昨日まで続いたその他の検査もみな無事終了し、明日30日の引き渡しを待つのみとなりました。


昨夕、ホテル入り口の看板が取り付けられ、電気がついた瞬間の光景は、またひとつ象徴的な場面に立ち会えた喜びとともに、長く心に残りそうです。