四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪見越入道 ⑮≫

オラトリオ見越入道
刻露清秀

〈4〉

『第九』も『受難曲』も響かない
数万年裏の世界氷河に
フラットではなく皆前趾足で
処女地への心技を刻む巡礼の体、
雪上確保、懸垂下降、
選び取られたそのルート図は
もとより定本も完本もなく
抄紙と瀑布に満ちた前表。


掌の大きな樹々が極彩色の扉を開き
盤根錯節がぬかるみにへりくだるように、
クレヴァスの下にはオルガンの水琴窟と
氷宮に差し戻された歴代の巨象の献体
観瀑台はおのずから新たな詞牌を生み、
詩篇は迸る、練り清められたモテットとなって。
ピラミダルな座は前途に雨裂と雪襞を課すも、
御名のフーガはあざなわれつつタクトの稜で合するように。


(次回から〈5〉)


現場多忙のため、ブログの更新がなかなかできず、すみません。


ここ半月ほど、3月末までの工事完了が厳しくなっていました。ホテルの営業開始はGW前ですから、4月半ばで何とか間に合わせる算段かと。


それがようやく、現場のとっ散らかった状況も変わってきました。搬入物もドアや化粧台、鏡、便器など客室仕様のものが増えています。


私はいつも朝一に現場に着き、館内の複数の鍵を開け、足場の悪い暗闇伝いに照明をつけてまわります。そのさい地下階の大浴場に立ち寄ると、むき出しの石が貼られて遺跡のようなたたずまい。でも搬入時に難渋した代物がこうしてパーツとなって現れるのを見ると、何ともいえないやりがいを感じるのです。


ずいぶん前向きだねえ…と、隣接現場の他社警備員からは何度も冷やかされました。でも私がこの仕事で得たいちばんの収穫は、多様な職種の作業工程を同時並行的にうかがい知ることができる点なのです。もちろん、交通誘導警備員は改修作業に直接携わる者ではありません。しかし連日20業種90名ほどが働くこの現場では、警備員といえども各階の作業状況を工程表などで把握しておかないと、搬入搬出に機敏に対応できません。建設現場で使う材料や道具のことなど各職方が平気で尋ねてくるのにも答えなくてはならないのです。


それをいま一人でやっているので、仕事の密度は著しく濃いし、経験2年としてはずいぶん詳しく覚えたほうだと思います。ただ、職歴としてみれば、社会的ブランクを取り戻すにはいまさらどんなに倍速倍々速で突っ走っても焼け石に水なのもわかっています。


社会的ブランクを社会的信用に置き換えてみても同じことです。例えば私はこのブログを完全なゼロ地点から始めました。初回でいちばん触れたくない経歴から書き起こし、一瞥しただけではわかるはずがない緊密な精神内容の詩を毎回載せ、何の肩書も発言力もない最底辺かつ社会的信用ゼロの書き手として歩み出したのです。


それから百日あまり。17回の記事を通読してみてください。私個人の社会的再生と、社会的信用への希求とがいかに真剣かつ深遠なものであるかを感じとっていただけるかもしれません。