四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪炎を測る3つの尺度(前半)≫

  一.


ここ半月ほど、現場の車輌誘導の難しさに直面し、気の重い日々が続いています。


場所は、≪懐疑に大きく振れる針≫などで書いた山の手のマンションの大規模修繕工事です。5~7月にかけて組んだ足場を、今度は丸1ヶ月かけて解体・搬出しているのですが、電柱と塀に挟まれた鋭角の入り口から、トラックの車幅ぎりぎりで段差が続いている狭い袋小路への誘導がじつに神経を使うのです。資材を満載してバックで出るときは特に大変です。


あと数日でこの搬出経路からは解放される見込みですが、交通量の多い主要道路との絡みでトラックを長く待たせるのはストレスそのもの。いま経験者と組んで誘導してはいるものの、時には車列を2車線止めて強引にトラックを引き出さざるを得ないこともあるため、毎回祈るような思いで良いタイミングを待ちます。


この極度の緊張感。後で振り返ればほんの一時的な取るに足らない心の動揺も、常駐者として日々直面している限りは逃げ場のない心労と言えます。そして私の場合、こんにちなら社会不安障害やあがり症としてもっと若いうちに対処法を見いだせたはずの症状でしたが、父の根性論や心療内科などへの拒否反応のため、結果的に40代までメンタルなアドバイザーは無し。倉庫作業や今の警備の現場を通じて自分自身で度胸と地力をつけながら心の弱さを乗り越えていくしかありませんでした。


  二.


ところで、皆さんは、揺らめく炎とじっくり向き合った経験がおありでしょうか? 野外活動や停電・被災で一晩中ロウソクを灯す場合とか、祭りやお寺の境内などで。


私の場合、単独登山中に日が暮れて、損壊した避難小屋で一泊したときのことが忘れられません。


熊も出没する深い樹林帯の中でした。扉は壊れ、風が入り放題。気温も下がり、ヘッドライトは電池をもたせるためあまり使えず、結局太いロウソク一本で光と暖を同時に取ることにしました。


吹きこむ風で大きくひしゃげる炎は私を不安にさせました。が、じきにほんとの厄介者が現れます。白い蛾の群れでした。バタバタとロウソクや私の周りを飛び交い、やがてカミソリのように炎へ突っ込んで即真っ暗闇にしてしまいました。


初めて見た光景だったので驚きが勝ちました。が、また10分足らずで第2陣、第3陣が炎にかぶさるとなると、もう不快でしかありません。熊が心配で明かりなしには過ごせるわけもなく、結局朝方までロウソクをつけては消されの繰り返し。寝転んでも蛾が目障りでウトウトすらできず、変な気配がすれば熊かと怯え、炎と同様、心も一晩中おどおど震えっぱなしでした。


翌朝、ロウソクの丈はちびた石鹸並みになっていましたが、芯はくぼみの中でしっかり立っていました。蛾の焦げかすが無数に散乱…。以来、自分の心の動揺しやすさに打ちひしがれるとき、よくこのロウソクの一夜を思い出します。


  (続きは次回)