四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪見越入道 ⑪≫

オラトリオ見越入道
刻露清秀

〈3〉(続き)

粘土に尖筆、砂手習から
天文密奏会議録まで、
巧暦募集の求人に始まり
智慧の館に至る王道、
数理数略の労をいとわず
時に遺題を承継しながら
すべての学侶は施主のみもとへ
無数のタイルが蒼穹を織り成すように。


バザールではどんな数でも鮮魚よろしく
手かぎ一臂で運び入れられ
目早い競りと身の切り分けと
読み上げ算と検算を経て
氷とセットで即売された。
ユークリッドの交通法規
アルキメデスの度量衡
普遍性はとかく天下ろうとする、
だが商人は他の誰よりも公正な秤を必要とした、
海の民、砂漠の民、インドの民との仲介のため。

(次回から〈4〉)


厳しい寒気が続くなか、都心に近いビル改修工事の現場は、遅れを取り戻すべく休日返上で追い込みにかかっています。年度末のビジネスホテル完成に向けて、今後は警備の私も休みが無くなりそうです。ちょうど2年前、警備会社の面接で、週4~5日勤務で定着できそうだったらそのつど2ヶ月更新したい、と申し出たときとは、もはや別次元の展開。


でも、振り返ってみると、行き詰まりを脱して開かれた状況に踏み出し、そこで手応えや要領をつかんでいく回復期こそ、私が最もいきいきとして無我夢中で、しかも敏活に頭がはたらく時期だったように思います。例えば上記の『オラトリオ見越入道』の詩作にしても、その構想が湧く以前、数年にわたる不毛な歳月があり、引きこもり自助グループにすら参加した混迷状態を抜けて初めて、仕事復帰と知的感受性の復活の兆しが同時に見えてきたのです。


警備員になる前もそうでした。素寒貧・自殺念慮の逼迫状態から、就労支援の半年がかりのプログラムに沿って介護職員初任者研修を修了し仕事に就くも、施設の閉塞感と狭すぎる人間関係で忽ち息が詰まり辞職。苦し紛れで応募した警備の仕事で幸いにも落ち着きを取り戻し、生活面でもコミュニケーションでも遅まきながらまっとうな就業者として復活できたわけです。


すでに年収や妻子の有無で他人と張り合う必要は全くない人間です。望んでいるのは広範にわたる精神的探究の成果と、知的な再接続への願い。あとは仕事の空きを利用して、近場でいいから海外旅行へ行きたい。警備の仕事は4月に入ると閑散期なのでそこを狙ってなんとか行くつもりです。