四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪現場交響楽団交通指揮者≫

全長300m、大型ショッピングモール建設現場にて交通誘導警備の隊長をしています。本体棟と立体駐車場、隣接する新設郵便局棟まで、建物はすでに外観上ひととおりできあがりました。足場の取れたエリアでは内装工事や庇のパネル取付。足場に覆われた建物も外壁塗装や屋上のアスファルト防水など、毎日綿密な打ち合わせのもとに、300人を優に超える職人・業者が各所で鋭意作業中です。


白い仮囲いと旧い石塀に囲まれた広大な敷地は、西側県道、南側市道に面しており、最近は連日、電線工事や電柱の移設、道路標識の取り替えなどが同時多発的に行われます。そのたびに高所作業車や建柱車が路上に連なり、他社の警備員たちが前面道路に規制をかけるため、ゲート前で大型車両を出し入れする際はこれまで以上に気を使う場面が多くなりました。


そうした周辺工事まで含めて、車両誘導全般に目を配るのが、隊長としての私の役割です。そもそもこの現場は1年前に工事が始まり、前のベテラン隊長が最初から常駐。5月ごろもう1人の常駐者が退いて現在の者と交代し、8月からは3人目が定着、12月の初めに4人目で私が加わりました。ただ、2人目と3人目があくまでも自分の持ち場のゲート番に徹していたのに対し、私は遊撃的に場内各所へ出没し、躯体の進捗状況をこの目で見ながら誘導していたので、年内には既に隊長からの指示が優先的にかかる立場となっていました。


今ではゲートも搬入動線も大きく変わり、敷地内では建物を取り巻く外周部に重機が入ってあちこちザクザク掘り返しています。埋設配管、浸透井戸の設置、U字溝や縁石工事など…。それに伴い、砕石や土を積んだダンプも随時往来し、自走式のタイヤショベルが市道へ出てゲート間を移動することさえよくあります。いずれは既存の(工場跡地の)重厚な石塀も取り壊し、今ある郵便局も解体し、前面道路から敷地内までことごとく舗装し直して見目麗しい駐車場とロータリーに生まれ変わることでしょう。


さてそんな一連の段取りは、毎月2枚の『月間工程表』にまとめられ、統括所長以下全監督と各職長の手に渡ります。実際の工事と数日のずれはあっても、概ね全体の流れが読み取れる緻密な資料です。が、当現場での工事内容は多岐にわたるだけに、横軸の日付に対して縦軸のびっしり並んだ工区分けも壮観です。各工区に1〜3階と屋上があり、庇や塔屋もあったりします。オーケストラに喩えれば4管編成の上に、舞台裏のトランペットと打楽器群とピアノを加えた大交響曲の総譜みたいです。


さらに4つのゲートで次々に迎え入れる搬入トラック、ダンプ、生コン車産廃車、高所作業車、トレーラー、他特殊車両の数々。
空調機や発電機も一気に青空高く屋上へ放り上げてしまうクローラクレーンやラフタークレーンの空中妙技。


いまや私は、2年前の『ドーミーイン』建設時の隊長経験も活きて、現場周辺で出くわす想定外の事態にも、さほど臆することなく指示を出せるようになりました。
そして時間に余裕ができると、場内を自転車で経めぐり、ショッピングモール営業開始を心待ちにしている近隣住民からの声かけにも応じながら各ゲートを回るのです。成長したな、と率直に思います。