四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪誘導灯を指揮棒に。非常時こそ試金石≫

ショッピングモールの建設現場。緊急事態宣言以降も350人規模で工事続行中です。併設の新郵便局棟や建物周囲の外構工事も着々と捗り、先日は道路拡幅で役割を終えた元の電柱を8本にわたって抜きました。


朝礼では各職長のみ前方に(間をおいて)並び、昼前の打ち合わせでは会議室に間をあけて座ります。それでも40近い職種の作業員たちが行き来する詰所や喫煙スペースなどは、3密以外の何者でもありません。が、とにかくここまで工程が進み、引き渡しの期日も確定した段階にきて、もう現場も中断するわけにはいかなくなりました。周辺道路の拡幅工事も、県道・市道ともに今は規制帯だらけで文字通り道半ばの状態だけになおさらです。


さてそんな現場に月〜土まで半日も身を置きながら、私がマスクを買えたのはやっと1週間前。車両誘導上、声や笛を使うのと、眼鏡が曇るため、仕事の間は今もマスクはずらしたままです。それでも自分がコロナに罹ればすべてがおしまいなので、交通誘導自体の大変さと相まって、終日綱渡りの緊張感が途切れることはありません。


しかし、気を抜けない厳しさの対価として、今は過去の就労では類のない貯蓄額を更新し続けています。もちろん、足かけ二十年余の社会的ブランク(引きこもりや無業・失業を含む出遅れの総計)自体は何ら取り返しがつかないけれども、その間に成し遂げた詩篇『オラトリオ見越入道』の完成とともに、交通誘導2級資格者としての再出発は私にかけがえのない自信と手応えをもたらしました。


そしてこんにち、コロナ感染に勝るとも劣らない言論界の狂態、国内外のジャーナリズムから著名人・文学者・ネット論客まで、罵詈雑言に満ち溢れた思想の壊滅状態を目のあたりにして、私はかれら同時代人に未だ汚染されていないことを心から誇らしく思います。知的世界から30年間 隔絶させられた疎外感も、ついに私の内なる『四時歩武』の一念を絶やすことはできなかったのです。