四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪半年後に咲く花々②≫

今から5年前、45歳の私はすべてをさらけ出して公的な就労準備支援事業の対象者となり、ゼロスタートで社会復帰への新たな一歩を踏み出しました。以来、始めは処女の如く、後は脱兎の如し、を地で行くかのように、飛躍的充実を遂げながら現在の務めに至っています。


と同時に、それ以前と面目を一新した点として、日々の心象風景がすごく鮮やかになりました。


新しい環境や初めて見聞きすることの連続で、頭も心も生気を取り戻し、枯れていた植物がよみがえるように、緑やつぼみを宿し開花し始めたのです。


私の場合、これは比喩としてだけではありません。就労支援プログラムから介護へと導かれ、一転して自ら警備へ。その節目となる出来事のたびに、そこには身近に緑があり花があり、それを愛おしむ感受性あるがゆえに、いわば回復期の喜びに満ちた過程そのものが季節の花に投影されていたわけです。


たとえば今の時期、道路際の植栽の端に背の高さほどまっすぐ伸びて手のひら位の花を優美に咲かせるタチアオイという植物があります。気温も湿度も上がり、日差しがぐんと強くなるこの時期、ひょろ長くも一本立ちして、塔の四方にパラボラアンテナを一気に開花させる鮮烈さ。この光景こそ、まだ就労支援員同伴のもと、職場見学やグループワークに明け暮れて就労など見果てぬ夢のようだった5年前の私に、まばゆいほどの希望と変容を予感させる大輪の花なのでした。やがて夏になり、就労体験や介護の初任者研修に向けて具体的に話が動き出すと、こうした興味はしぼみ、次に花の話ができたのは、初任者研修で親しくなった50代女性に教えた店先のランタナの花でした。半年後のことです。



警備員になってからも、私は随所で植栽や花に目を留めます。マンションの外壁補修工事などに就くと、管理人など年配者が多いため、たとえばエントランスまわりのシャクナゲの花を褒めたらすごく喜んでもらえたこともありました。


警備員検定の一つ、交通誘導2級を受けた時も、本番前、つい花に目がいってしまいました。実技試験はグランドを借りて行ったため、教官に先導され、70数名が一般道を歩いて移動。受検者は県内の主な警備会社に原則1人ずつの割り当てで、ゼッケンをつけて講習と考査(試験)に臨みます。


4月の半ば、講習4日めにして初めて空も晴れ。センター内体育館での命令調の実技講習に辟易していた私は、グランドへの道中、就労支援員と初めて面談した2年前を思い出しながら感慨深く歩いていました。ふと、通りの一角に一株だけ白い可憐なドウダンツツジが鈴なりに咲き誇っているのを見つけました。「見て! ほら、ドウダンツツジ!」思わず周囲に呼びかけてしまい、周囲のゼッケンみなドン引きに…。


登山と同じく、花の話題も時と人を選ぶものですね。