四時歩武和讃(しじほぶわさん)

〜立ち直りから精神復興へ。一警備員の手記と詩篇~

≪雨登山、霧風情≫

岩手山へ登ったのは8/12でした。正確には、11日の終電でいわて銀河鉄道滝沢駅まで行き、コンビニで食料と水を調達して、そのまま徒歩で登山口に向かって歩き出したのでした。


夜通し歩くこの登山スタイルは、日程や宿泊費を浮かす目的で、過去にも何度か試みています。成功例では浅間山噴火口到達や、権現岳(八ヶ岳)登頂があり、夜明けの早い初夏には向いています。しかし車道とはいえ真っ暗な山道を十数km独りで歩くアプローチは休憩所も気の休まる時もなく、正直、登山口に着くまでに気力が萎えて不戦敗したケースのほうが多いです。


今回は、お盆休み中の山の天気がほぼ全滅予報だったので、初めから展望は諦めていました。
ただ、足かけ30年近い登山歴の中で、日本百名山については遅れてやっと50座めとなるため、それにふさわしい山を選んだつもりです。


とはいえやはり天気は崩れ、夜半から容赦なく雨でした。朝方登山開始後も湿気で蒸し暑く、気持ち悪くなりペースダウン。警備員になって以降の登山では明らかに最悪のコンディションです。


唯一救いだったのが、道端の可憐な花々でした。それも、登るほどに、稜線上に出るほどに、群生し、色づきを増して、そのつど写真を撮り直さざるを得ないほど。


湿っぽく吹き抜ける風や細かい霧雨の中で、とりわけ釣り鐘状のハクサンシャジンが、群青色にそよいで目に鮮やかでした。

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8合目の山小屋が見えてくると、自分もやっと元気を取り戻します。小屋番は居たが他にひと気もないので、記念に日付入り手ぬぐいとバッジを買い求め、再び濃霧の中へ。


このあと山頂までの急登は、晴れていれば外輪山やお鉢巡りの大観を満喫できたでしょうが、なんにも見えず、足元のザレた踏み跡を強引にたどるだけでした。似たような火山はいくつも登っているため、地形もだいたい想像はつくのですが。


ただ、この山行中、いちばん美しかった光景は、急登の岩陰にへばり付くように咲いていたイワブクロだった、と思います。ウスユキソウやウメバチソウも端正でしたが、イワブクロの花は粒の細かい水滴に覆われてゼリーのように透き通り、これまでに見たことのない姿でした。

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このあと山頂に達して以降、焼走りコース下山路については、土砂降りすぎて、コマクサの群生に気づいた以外は記憶にありません。警備で使い古したコンビニのレインコートは途中で破れてしまい、全身着替える(服を買う)必要性から、下山後も延々県道を歩いて大更というJR駅にたどり着いたときはもう夕方になっていました。